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いんえいらいさん
陰翳礼讃
谷崎 潤一郎
「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页
今日でもあゝ云う恰好の胴体を持った女が、舊弊な家庭の老夫人とか、藝者などの中に時々いる。そして私はあれを見ると、人形の心棒を思い出すのである。事実、あの胴体は衣裳を着けるための棒であって、それ以外の何物でもない。胴体のスタッフを成しているものは、幾襲ねとなく巻き附いている衣と綿とであって、衣裳を剥げば人形と同じように不恰好な心棒が残る。が、昔はあれでよかったのだ、闇の中に住む彼女たちに取っては、ほのじろい顔一つあれば、胴体は必要がなかったのだ。思うに明朗な近代女性の肉体美を謳歌する者には、そう云う女の幽鬼じみた美しさを考えることは困難であろう。また或る者は、暗い光線で胡麻化した美しさは、真の美しさでないと云うであろう。けれども前にも述べたように、われ/\東洋人は何でもない所に陰翳を生ぜしめて、美を創造するのである。「掻き寄せて結べば柴の庵なり解くればもとの野原なりけり」と云う古歌があるが、われ/\の思索のしかたはとかくそう云う風であって、美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える。夜光の珠も暗中に置けば光彩を放つが、白日の下に曝せば宝石の魅力を失う如く、陰翳の作用を離れて美はないと思う。