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いんえいらいさん
陰翳礼讃
谷崎 潤一郎
「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页
ところが西洋人の方は、表面が濁っているようでも底が明るく透きとおっていて、体じゅうの何処にもそう云う薄汚い蔭がささない。頭の先から指の先まで、交り気がなく冴え/″\と白い。だから彼等の集会の中へわれ/\の一人が這入り込むと、白紙に一点薄墨のしみが出来たようで、われ/\が見てもその一人が眼障りのように思われ、あまりいゝ気持がしないのである。こうしてみると、かつて白皙人種が有色人種を排斥した心理が頷けるのであって、白人中でも神経質な人間には、社交場裡に出来る一点のしみ、一人か二人の有色人さえが、気にならずにはいなかったのであろう。そう云えば、今日ではどうか知らないが、昔黒人に対する迫害が最も激しかった南北戦争の時代には、彼等の憎しみと蔑みは単に黒人のみならず、黒人と白人との混血児、混血児同士の混血児、混血児と白人との混血児等々にまで及んだと云う。彼等は二分の一混血児、四分の一混血児、八分の一、十六分の一、三十二分の一混血児と云う風に、僅かな黒人の血の痕跡を何処までも追究して迫害しなければ已まなかった。一見純粋の白人と異なるところのない、二代も三代も前の先祖に一人の黒人を有するに過ぎない混血児に対しても、彼等の執拗な眼は、ほんの少しばかりの色素がその真っ白な肌の中に潜んでいるのを見逃さなかった。