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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

予定の通り五百円でつりをもらい、その場でくるぶしにだけこうやくをはった。びっこひきひき駅の方へと歩いてゆくと、白い布にのばしたこうやくは熱をもった皮膚にしみて気持がよかった。彼は途中の、常磐線のガードまでくると、草土手の青さに吸いよせられるようにのぼってゆき、腰をおろすと、あたりをうかがいながら、ズボンをこきおろした。腰にもこうやくをはってやりたかったのだ。そのひそかな作業がすむと、彼はあらためて土手にあおむけになった。空も青い。そのまま大きく呼吸をした。猫背がのびそうな気がした。彼はふっと二三子の言葉を思い出した。――小説家なんて、おっかないよ――。まったくだと思う。しかしそのおっかなさは二三子のとは少しちがう。おっかないというよりも、けむたいのだ。

――だがね、音枝ちゃんはいいよ。ありゃいい娘だ――

お得意のひとりごとである。さらにつづけて、

――夏樹という子はもっといいや。十円貯金、さらけ出してくれたもんな――

彼は急に起き上った。予定を変更して、やっぱり中野へゆこうと思ったのだ。

高田馬場で乗りかえた私鉄を野方という駅でおりるともうお昼に近かった。