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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

あとの方は泣きべそをかきながら、玄関の式台にかけたまま横をむいて目をこすった。

「ま、ま、おじさん、とにかくおあがんなさいよ。」

招じながら音枝はふと疑問を感じた。ここからの帰りに、どうして自転車にのったのだろう? しかし、れっきとした証拠の傷あとはうたがいをふっ消すのに十分だった。びっこまでひいているではないか。それで無心にきたのだと思いながら、

「自転車って、高いんでしょ。一万円以上じゃない?」

すると夏樹がそれに答えた。

「一万円なんて、馬鹿だなあおねえちゃん。ぼくの買いたい子供自転車だって、一万円だよ。」

「あ、そうか。」

「おとなのなら二万円ぐらいだよ。ね兵六さん。」

「さあね、二万円に近いだろうね。」

案外、けろっとしている。音枝の関心ぶりにほっとしているのかもしれない。

「それで、どうしますのおじさん。」

心配顔の音枝に、

「実はね、それで相談にきたんだがね。おかあさん、いるかね、おかあさん……」

彼はもうすでに浜子や夏樹に聞いて知っていることをまた聞いた。

「いますけど。困ったわ。母は今面会謝絶で急ぎの仕事をしてるのよおじさん。ですからこの話、四五日まってくださいな。