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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
男は素早くよしのに何かを手わたすと、一言もいわずに立ち去った。同時に急に足の早くなったよしのに安江はきいたのである。
「ねえちゃん、なにもろたん?」
するとよしのは少しこわい顔をして、
――なあももらわへん、ほら。
と、手をひらいてみせた。そして今度はきげんをとるように、
――だれっちゃにいうたらいかんで――と口どめをした。その時の黒いマントが兵六さんだったのだ。
兵六さんも、あんなに若かったのに――とあたり前のことを安江が思うのも、今目の前にいるその人があまりに変りはてているからだ。あれから半世紀に近い歳月がすぎているのだから、しわや白髪はあたり前のことだが、そのしわや白髪にいささかの自信もなげな兵六さんの哀れさは、何かものほしげなものを押しつけているようで、安江はひそかに警戒している自分に気がついていた。何の懸念もなさそうに田舎言葉でバツをあわせてはいるものの、浜子たちをしかれたものではない。姉のよしのが生きていれば、きょうだいづきあいの間柄になっていたかも知れぬ兵六さんなのだ。しかし、この人が昔、姉とかけおちまでした人かと思うとげっそりした。夏樹を相手に、立ったりすわったりしている兵六さんを安江は、一種のごうまんさで、