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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

一本だけ赤いのをいれてね、十本ばかり」

外に出ると音枝はふっと涙ぐみながら、気がめいった。それでも足は軽いかのようにそそくさと、心当りの医者の方へと彼女の小さなからだを運んだ。真っ昼間である。彼女は人目をはばかることさえ忘れて、婦人科医の門をくぐった。「ベルを押しておはいりください」のはり紙をみると、ためらうことなく押した。思いがけない近さでベルが鳴り、とびらをあけると、やつれた顔の見知らぬ女が三人、順番をまっていた。音枝ははじめてはじらいながら、自分はちがうという態度で受付に立った。

「あのう、宮川浜子が、こちらにいると思いますが――」

「宮川さん? さあ、ちょっとおまちください。」

首をかしげながら奥に引っこんだまま、なかなか出てこない。

代って出てきたのは、白いうわっぱりの女医さんだった。町で何度か見かけて知っている顔であったが、女医さんの方では、どこのだれかわからぬ表情で、

「どなたですって?」

音枝はどきっとしながら、

「あの、宮川浜子って申しますけど。」

「宮川浜子って、おととい入院したんですって?」

「ええ、多分こちらだと思うんですけど。」

「おかしいわね。