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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

それにこの商売ばかりは、途中で大儀になるようなことが起ったとしても、ほうきのように商品を肩にかついで電車にのるわけにもゆかない。いかに遠かろうとも、二本の足でてくてくと、しかも重たい車を引っぱってこなければならないのだ。年のせいもあって、時には自分のからだに危険を感じたりすることもある兵六さんは、都内へ出かけるときでも、兵六さんなりの用意だけはしていた。戦時中を思い出してポケットの中に、所番地をかいた紙ぎれをいれておくことだ。それと、いつかもらった文吉の古い名刺とを、大事にもっていた。

どういうわけか兵六さんは、音枝や夏樹が、おせいや二三子以上に思えてならなかった。文吉の名刺からくる妄想は、いつかのけがの時のように戸板にのせられて、安江の家へ運ばれる自分の姿であった。あれ以来冷たい二三子の態度の物足りなさを音枝や夏樹に求めているのかもしれない。いつ帰っても女房子のいない家の中で、彼は夏樹や音枝のことを思いながらねむった。そして、うみもしないくせに子運のよい安江をうらやみ、その羨望の自分勝手さに悔いとあきらめのほろ苦さを感じたりもした。しかしそれでぺしゃんこになることはもうなかった。