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ざっとう

雑沓

宮本 百合子

「中央公論」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页

青空文庫

不服そうに、居あわす者にきこえる位の声で云った。その場の皆の前にあるのはレモン入りの紅茶である。瑛子は顰蹙した声で云った。

「レモンなんぞ入れないだってよかったのに――」

偶然、自分の茶碗からレモンの切を受皿へどけていた宏子は、茶碗の中を見たまま顎のところまであかくして、暫くは顔をあげなかった。

間に二人ほど泰造の事務的な来客があった。四時頃、宏子が腕時計を見ながら階段下を来かかると、畳廊下のところに、中途半端な立姿で、羽織だけ着更えた瑛子が佇んでいる。隅の衣裳箪笥の戸をあけて、泰造がこちらへ細かい大島の背中を向け、中に吊ってあるモーニングの内ポケットから紙入れを出しかけているらしいのであったが、その手つきは焦立ったように動いているにかかわらず、いかにもしないでもいいことを手間どってしているような風である。瑛子が、声を低め、熱心に云っていた。

「だってあなた、そんなことは出来ませんよ、失礼じゃありませんか」

「いや失礼じゃない」

「これまで家庭的にやって来ているのに、今急に――」

傍を通りぬけようとする宏子を、

「ちょいと、宏ちゃん」

瑛子は、当惑と抑えた腹立ちと更に際立って一種のつややかさが動揺している仄白い顔の表情で宏子を呼びとめた。