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ざっとう

雑沓

宮本 百合子

「中央公論」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页

青空文庫

父用の文房具が並んだ細長い大卓とは別に、古い大理石のテーブルが屏風のところによせて置かれている。宏子はそこへ陣どった。そして、小型の原稿紙をひろげた。塾では、語学が専門であったから、西洋史なども英語で外国人の女教師が受持った。ところが、その教えかたは昔流儀の暗記一点張りで、内容が貧弱であるのと暗記の努力がばからしいのとで、学生一般から不評判であった。宏子としては、文学が好きで語学の勉強にも入ったのであったが、宣教師の女教師が、語学は地の言葉で出来るというだけで真の教養や感受性をもっていず、而も自分を何か格段のもののように振舞うことに、軽蔑を感じていた。寮でそんな話が栄えた時、はる子が、

「加賀山さん、あんた書いてよ」

と云った。

「『欅』にのせるから」

原稿紙のまま綴じたそういう名の回覧雑誌のようなものを、特に文学好きの十五六人でこしらえているのであった。電話で、はる子が書くもの、と云ったのはこのことなのである。

宏子は、スタンドの灯かげで気持をだんだんまとめた。自分の云いたいことが次第にはっきりして来る。それにつれ、一方で、弟の気持、考えかたというようなものが、自分のそれと何処かでひどく違っていること、或は全く別種なものかもしれないという不安なような珍しいような気が益々つよくした。