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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
こまると、誰かが日本文の種本を見つけたのを、ひっぱりあってところどころ利用して翻訳し、間に合わせることがあった。外国人の教師は日本語の本はよまなかったから、通用しているのであった。
宏子は、図書室へ入り窓際のところに坐って、暫く仕事をした。帰りかけると、はなれた机にいた登誉子もその様子を見て一緒に出て来た。
「……これから伯母さんの家へかえったってつまらないし……あなたのお部屋へでもよって行きたいナ」
「いらっしゃいよ、かまやしないから」
「うるさいんだもん……」
砂利の敷いてあるところを寮の方へゆっくり歩いて来る途中で、訳読を受持っている戸田がむこうから来た。何かの帳簿を二冊ばかり交織スーツの脇の下にはさみ、大きい鉢植のシクラメンを両手でもっている戸田は、宏子たちが目礼すると、ひどく砕けた口ぶりで、
「どうです、綺麗でしょう?」
そう云いながら手の鉢を持ち上げて見せるようにし、眼尻でにっと笑って、力のある足どりで行きすぎた。
「…………」
「――でも、なぜあの先生、いつもああ、お愛想がいいんだろう、妙で仕様がない」
「…………」
「三年の川原さんての、親類なんだってね」