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ざっとう

雑沓

宮本 百合子

「中央公論」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页

青空文庫

その小さい墓碑の一つ一つの裏に瑛子は自分で和歌を書いて刻らせているのであった。

「何しろ、母様はこわい人だからね。おとなしければ、じりじりなさる人だし、余り熱があればあったでぶつかるんだし……わかっていらっしゃる? 自分で――」

「――どうも、そうらしいね」

瑛子は、濃い睫毛をしばたたき、年に合わせて驚くほど肌理の艶やかな血色のよい頬に微かな満足気な亢奮を泛べた。

実の母娘の間にある独特な遠慮のない自然さ。それと絡みあって親密な一面があるだけに却って消えることのなく意識される二人の気質の異いから来る一種のぎごちなさ、間隔の感じは、夕方、父親の泰造が帰宅してやっとしんから自由な、団欒の空気の中に解きはなされた。玄関の方で耳なれた警笛が鳴ったのをききつけると、宏子は、

「そら、ダッちゃんのお帰りだ!」

短いソックスで畳の上をすべるような勢でかけ出した。もう、沓脱ぎ石へ片足をかけて靴の紐をといていた泰造は、紺の襞の深いスカートをふくらませたままそこへ膝をついた宏子を見ると、

「ヤア、来たね」

茶色のソフトをぬいで娘に手渡した。

「どうしたね」

「父様は? お忙しい?」