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ざっき(いち)

雑記(Ⅰ)

寺田 寅彦

「中央公論」1922(大正11)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,568 字 · 33 页

青空文庫

柿の熟したような色をしたその顔が、さもさも喜びに堪えないといったように、心の笑みを絞り出した表情をしている。これが生きている人の本当の顔ならば、おそらく一分間あるいは三十秒間もそのままに持続する事は困難だろうと思われる表情をいつまでも持続して舞うのである。これは舞楽に限らない事であろうが、これだけの事でもそこに一種の空気が出てくる。もっとも不思議な事に、仮面の顔というものは、永く見ていると、それが色々に動き変わるような錯覚を生じるものだが、この場合でもやはりそれがある。音楽と運動の律動につれて、この笑顔にも一種の律動的変化を感じる事が出来る。

柿色の顔と萌黄色の衣装の配合も特殊な感じを与える。頭に冠った鳥冠の額に、前立のように着けた鳥の頭部のようなものも不思議な感じを高めた。私はこの面の顔の表情に、どこか西洋画で見るパンの神のそれに共通なものがあるような気がしてならなかった。

三番目は「蘇莫者」というのである。何と読むのか、プログラムに仮名付けがないから分らない。説明書によるとこの曲はもと天竺の楽で、舞は本朝で作ったとのことである。蘇莫者の事は六波羅密経に詳しく書いてある。