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ざっき(いち)
雑記(Ⅰ)
寺田 寅彦
「中央公論」1922(大正11)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,568 字 · 33 页
をかき乱すような事がありはしないかというような気がする。そんな事がありそうである。そしてそうあっては困ると思う。しかし当人は存外平気で笑っているかもしれない。
もし誰かがカントを引ぱり出して寄席の高座から彼のクリティクを講演させたとしたらどうであったろう。それは少しも可笑しくはないかもしれない、非常に結構な事ではあろうが、しかしそれがカントに気の毒なような気のするだけは確かである。
私はただ何という理窟なしにボーアの内面生活を想像して羨ましくまたゆかしく思っていた。そしてそのような生活がいつまでも妨げられずに平静に続いて行って、その行末永い途上に美しい研究の花や実を齎す事を期望している。(大正十二年一月『中央公論』)
四 切符の鋏穴
日比谷止まりの電車が帝劇の前で止まった。前の方の線路を見るとそこから日比谷まで十数台も続いて停車している。乗客はゾロゾロ下り始めたが、私はゆっくり腰をかけていた。すると私の眼の前で車掌が乗客の一人と何かしら押問答を始めた。切符の鋏穴がちがっているというのである。
この乗客は三十前後の色の白い立派な男である。