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ざっき(に)

雑記(Ⅱ)

寺田 寅彦

「中央公論」1924(大正13)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,640 字 · 14 页

青空文庫

広いこの都会の、数多い洋食店の中でも、自分の注文に合うような家はまことに稀であった。高等な料理店へ行けば、室内も立派で清潔ではあるが、そこに集まって食事をしている人達が、あまりに自分とはかけ距れた別の世界に属する人達のようであった。そういう中に交じってみると、自分がただ一人間違ってまぎれ込んだ異国の旅人でもあるような心持がして何となく圧迫を感じるのである。それかと云って、もう少し気楽なところでは、卓布や食器がひどく薄汚かったり、妙に騒々しかったり、それよりも第一料理が重苦しくて、自分の胃には拠なく負担が過ぎるのである。

そういう点で、自分の六かしい要求に比較的よくはまるのが、このA町の家であった。ここへは一団の政治界や経済界に羽をのして歩くようなえらい人達は来ないようであった。そうかと云ってあまり騒々しいぷろれたがり屋の酒呑み客も来なかった。来ている人は、もちろんどういう人か分らないが、何かしら少なくも自分と同じ世界のどこかに住んでいる人のような気がした。時々は家族連れの客も来ていたが、みんなつつましい、静かな人達のようであった。

食卓には、いつも、切子ガラスの花瓶に、時節の花が挿してあった。