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ざっきちょうより(に)
雑記帳より(Ⅱ)
寺田 寅彦
「文学」1934(昭和9)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,473 字 · 9 页
老母の鬢の毛のほつれをかわるがわるとりあげて繕ってやっている。つい先刻までは悲しみと疲れとにやつれ果てていた老母の顔が、さも嬉しそうに、今まで見たことのないほど嬉しそうにかがやいて見えるのであった。
なんだか非常に羨ましいような気がして同時に今まで出なかった涙が急に眼頭を熱くするのを感じた。
五
八十三で亡くなった母の葬儀も済んで後に母の居間の押入を片付けていたら、古いボールの菓子箱がいくつか積み重ねてあるのに気がついた。何だろうと思って明けてみると、箱の奥に少しずつ色々の菓子の欠けらが散らばっていた。それを見たときにはっと何かしら胸を突かれるような気がして、張りつめて来た心が一時にゆるみ、そうして止処のない涙が流れ出るのであった。
六
ある食堂の隣室に自働電話の自働交換台がある。同じような筒形のものが整列し、それが数段に重なっている。食事をしながらぼんやり見ていると、ときどきあちこちに小さな豆電燈がついたり消えたりする。それらの灯のあるものは点ったと思うとパチ/\/\とせわしなく瞬きをしてふっと消える。器械の機構を何も知らないものの眼で見ていると、その豆電燈の明滅が何を意味するのか全く見当がつかない。