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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

よしやわざくれ、作品のモチーフとなる切情に殉ぜんかなと)

からし菜、細根大根、花菜漬、こういった旬の青味のお漬物でご飯を勧められても、わたくしは、ほんの一口しか食べられなかった。

電気ストーヴをつけて部屋を暖かくしながら、障子をもう一枚開け拡げて、月の出に色も潤みだしたらしい不忍の夜の春色でわたくしの傷心を引立たせようとした逸作も遂に匙を投げたかのように言った。

「それじゃ葬式の日まで、君の身体が持つか持たんか判らないぜ」

逸作はしばらく術無げに黙っていたが、ふと妙案のように、

「どうだ一つ、さっきのお雛妓の、あの若いかの子さんでも聘んで元気づけに君に見せてやるか」

逸作は人生の寂しさを努めて紛らすために何か飄逸な筆つきを使う画家であった。都会児の洗練透徹した機智は生れ付きのものだった。だが彼は邪道に陥る惧れがあるとて、ふだんは滅多にそれを使わなかった。ごく稀に彼はそれを画にも処世上にも使った。意表に出るその働きは水際立って効を奏した。

わたくしはそれを知っている故に、彼の思い付きに充分な信頼を置くものの、お雛妓を聘ぶなどということは何ぼ何でも今夜の場合にはじゃらけた気分に感じられた。