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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

というものをかけて呉れた。

「今晩は」

襖が開いて閉って、そこに絢爛な一つくねの絹布れがひれ伏した。紅紫と卵黄の色彩の喰み合いはまだ何の模様とも判らない。大きく結んだ背中の帯と、両方へ捌き拡げた両袖とが、ちょっと三番叟の形に似ているなと思う途端に、むくりと、その色彩の喰み合いの中から操り人形のそれのように大桃割れに結って白い顔が擡げ上げられた。そして、左の手を膝にしゃんと立て、小さい右の手を前方へ突き出して恰も相手に掌の中を検め見さすようなモーションをつけると同時に男の声に擬して言った。

「やあ、君、失敬」

眼を細眼に開けてはいるが、何か眩しいように眼瞼を震わせ、瞳の焦点は座敷を抜けて遥か池か彼方の水先に放っている。それは小娘ながらも臆した人の偽りをいうときの眼の遣り所に肖ている。かの女はこの所作を終えると、自分のしたことを自分で興がるように、また抹殺するように、きゃらきゃらと笑って立上った。きゃらきゃらと笑い続けて逸作の傍の食卓の角へ来て、ぺたりと坐った。

「お酌しましょうよ」

わたくしはこの間に、ほんの四つ五つの型だけで全身を覆うほどの大矢羽根が紅紫の鹿の子模様で埋り、余地の卵黄色も赤白の鹿の子模様で埋まっているのを見て、この雛妓の所作のどこやら場末臭いもののあるのに比して、案外着物には抱え主は念を入れて