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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

「おにいさん――」

しかしその言葉はわたくしに対して懸念がありと見て取るとかの女は「ほい」といって直ぐ、先生と言い改めた。

「先生。何か踊らなくてもいいの。踊るんなら、誰か、うちで遊んでる姐さんを聘んで欲しいわ」

そう言ってつかつかと逸作の方へ立って行った。煙草を喫いながらわたくしと雛妓との対談を食卓越しに微笑して傍観していた逸作は、こう言われて、

「このお嬢さんは、売れ残りのうちの姐さんのためにだいぶ斡旋するね」

と言葉で逃げたが、雛妓はなかなか許さなかった。逸作のそばに坐ったかの女は、身体を「く」の字や「つ」の字に曲げ、「ねえ、先生、よってば」「いいでしょう、先生」と腕に取り縋ったり髪の毛の中に指を突き入れたりした。だがその所作よりも、大きな帯や大きな袖に覆われてはいるものの、流石に年頃まえの小娘の肩から胴、脇、腰へかけて、若やいだ円味と潤いと生々しさが陽炎のように立騰り、立騰っては逸作へ向けてときめき縺れるのをわたくしは見逃すわけにはゆかなかった。わたしは幾分息を張り詰めた。

逸作の少年時代は、この上野谷中切っての美少年だった。だが、鑿ち出しものの壺のように外側ばかり鮮かで、中はうつろに感じられる少年だった。