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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

とかくに人に対して中庸を得てないわたくしの血筋の性格である。生憎とそれをわたくしも持ち伝えてその一方をここにも現すのかと思うとわたくしは悲しくなる。けれども逸作は、却ってそれを悦ぶのである。「俺がしたいと思って出来ないことを、おまえが代ってして呉れるだけだ」

こういうとき逸作の眼は涙を泛べている。

きょうは踏石を吾妻下駄で踏み鳴らすことも「帰ってよ」と叫ぶこともしないで、すごすごと玄関の障子を開けて入るわたくしの例外の姿を不審がって見る老婢をあとにして、わたくしは階段を上って逸作の部屋へ行った。

十二畳ほどの二方硝子窓の洋間に畳が敷詰めてある。描きさしの画の傍に逸作は胡坐をかき、茶菓子の椿餅の椿の葉を剥がして黄昏の薄光に頻りに色を検めて見ていた。

「これほどの色は、とても絵の具では出ないぞ」

ひとり言のように言いながら、その黒光りのする緑の椿の葉から用心深くわたくしの姿へ眼を移し上げて来て、その眼がわたくしの顔に届くと吐息をした。

「やっぱり、だめだったのか。――そうか」と言った。

わたくしは頷いて見せた。そして、もうそのときわたくしは敷居の上へじわじわと坐り蹲んでいた。