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おしゃく
雛妓
岡本 かの子
「日本評論」1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页
負けてはならないぞ。そしてこの重荷を届けるべきところにまで驀地に届けることだ。わき見をしては却って重荷に押し潰されて危ないぞ。家霊は言ってるのだ――わたくしを若しわたくしの望む程度まで表現して下さったなら、わたくしは三つ指突いてあなた方にお叩頭します。あとは永くあなた方の実家をもあなた方の御子孫をも護りましょう――と。いいか。苦悩はどうせこの作業には附ものだ。俺も出来るだけ分担してやるけれどお前自身決して逃れてはならないぞ。苦悩を突き詰めた先こそ疑いもない美だ。そしてお前の一族の家霊くらいおしゃれで、美しいものの好きな奴はないのだから――」
読書もそう好きでなし、思索も面倒臭がりやの逸作にどうして、こんないのちの作略に関する言葉が閃めき出るのであろうか。うつろの人には却っていのちの素振りが感じられるものなのだろうか。わたくしはそれにも少し怖れを感じたけれども、眼の前の現実に襲って来た無形の大磐石のような圧迫にはなお恐怖を覚えて慄え上った。思わず逸作に取縋って家の中で逸作を呼び慣わしの言葉の、
「パパウ! パパウ!」
と泣き喚く顔を懸命に逸作の懐へにじり込ませていた。