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あめ

雨

織田 作之助

「海風」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页

青空文庫

むろん山谷を追いだしたのだが、山谷のねっとりと油の浮いたような顔は安二郎の頭を絶えず襲ってきた。安二郎の顔にはみるみる懊悩の色が刻みこまれた。罵倒してみても、撲ってみても心が安まらなかった。安二郎は五十面下げて嫉妬に狂いだしていた。お君がこっそり山谷に会わないだろうかと心配して、市場へ行くのにもあとを尾行た。なお、自分でも情けないことだが、何かにつけてお君の機嫌をとるのだった。安二郎もどうやら痩せてきた。貸金の取りたてに走り廻っている留守中、お君が山谷に会っているかもしれないと思うと、もう慾も得もなく、集金の途中で帰ってしまうのだった。――そんな安二郎の苦悩はいま豹一は隅々まで読みとれた。

「じつはお前の居所を知りとうてな。探してたんや。新聞広告出したん見えへんかったんか」

と言い、そして家へ帰って、お君によくいいきかせ、なお監視してくれと頼む安二郎を、豹一は、ざまあ見ろと思った。けれども、そんな安二郎を見るにつけ、××楼の妓に嫉妬した自分の姿を想い知らされてみると、この男も人間らしくなったと、何か安二郎に同情した。思わぬ豹一に同情されて、安二郎は豹一が病気でなければいっしょに酒を飲みたいくらいの気持を芸もなく味わされ、意外な父子の対面だった。