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あめ

雨

織田 作之助

「海風」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页

青空文庫

カッと唇をかみしめながら、キャバレエーの中へはいって行った。ここのナンバーワンは誰かと訊いて、教えられたテーブルを見ると、銀糸のはいった黒地の着物をいちじるしく抜襟した女が、商人コートを着た男にしきりに口説かれていた。呼ぶとすらりとした長身を起して傍へ来た。豹一はぱっと赧くなったきりで、物を言おうとすると体が震えた。呆れるほど自信のないおどおどした表情と、若い年で女を知りつくしている凄みをたたえた睫毛の長い眼で、じっと見据えていた。

その夜、その女といっしょに千日前の寿司捨で寿司を食べ、五十銭で行けと交渉した自動車で女のアパートへ行った。商人コートの男に口説かれていたというただそれだけの理由で、「疳つりの半」へ復讐めいて、その女をものにした。自分から誘惑しておいて、お前はばかな女だと言ってきかせて、女をさげすみ、そして自分をもさげすんだ。女は友子といい、美貌だったが、心にも残らなかった。

ところが、三月ほどして戎橋筋を浮かぬ顔して歩いていると、思いがけず友子に出会った。あんたを探していたのだと、友子は顔を見るなりもう涙を流していた。妊娠しているのだと聞かされ、豹一ははっとした。