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あめ

雨

織田 作之助

「海風」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页

青空文庫

いよいよ実家に戻ることになり、豹一を連れて帰ってみると、家の中は呆れるほど汚かった。障子の桟にはべたッと埃がへばりつき、天井には蜘蛛の巣がいくつも、押入れには汚れ物がいっぱいあった。……お君が嫁いだ後、金助は手伝い婆さんを雇って家の中を任せていたのだが、選りによって婆さんは腰が曲り、耳も遠かった。

「このたびはえらい御不幸な……」

と挨拶した婆さんに抱いていた子供を預けると、お君は一張羅の小浜縮緬の羽織も脱がず、ぱたぱたとそこらじゅうはたきをかけはじめた。

三日経つと家の中は見違えるほど綺麗になった。婆さんは、じつは田舎の息子がと自分から口実を作って暇をとった。ここは地獄の三丁目、の唄が朝夕きかれた。よく働いた。そんなお君の帰ってきたことを金助は喜んだが、この父は亀のように無口であった。軽部の死についてもついぞ一言も纒まった慰めをしなかった。

古着屋の田中の新ちゃんはすでに若い嫁をもらっており、金助の抱いて行った子供を迎えにお君が男湯の脱衣場へ姿を見せると、その嫁も最近生れた赤ん坊を迎えに来ていて、仲よしになった。雀斑だらけの鼻の低いその嫁と比べて、お君の美しさはあらためて男湯で問題になった。