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あめ
雨
織田 作之助
「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页
初めてお君の顔に皺が刻みこまれた。彼女は見る/\顔の艶を失って行った。森田から手紙が来たのを横取りした安二郎は消印が大阪市内だと知って、恐しく狼狽した。黙って居れば良いのに、手紙が来たぞと嫌味をいい、そして、お君が返事を出さないかと心配するのだった。自分の留守中に返事書くだろうと思うと外出もせず、勿論お君の外出も禁止した。いくら何でも風呂だけはと銭湯に出掛けて行くのにもこっそり後を尾行け、自宅に風呂場を作らねばならぬと思った。
意外な安二郎の迎えを豹一は不審んだが、実はお前の母親のことやがとわざとお君とも女房ともいわずに喋り出した安二郎の話をきくと、事情が分った。十八の豹一をつかまえて、洗いざらい恥さらししなければならぬ自分を安二郎はさすがに情なく思い、つとめて平静を装うのだったが、既に豹一は安二郎の苦悩が隅々まで読みとれる男になっていた。実はお前の居所を知り度うてな、新聞広告出してたん見えへんかったかといい、家に戻ってお君を監視してくれと頼む安二郎を、ざまあ見ろと思ったが、しかし、そんな安二郎を見るにつけ、巴里楼の妓に嫉妬した自分の姿を想い知らされる豹一は、初めて安二郎に親しみを覚えた。