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あめのかみこうち
雨の上高地
寺田 寅彦
「登山とスキー」1935(昭和10)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,473 字 · 9 页
大きな丸太を針金で縛り合せた仮橋が生ま生ましく新しいのを見ると、前の橋が出水に流されてそのあとへ新造したばかりであろうかと思われた。雨と一緒に横しぶきに吹きつける河霧がふるえ上がるように寒かった。
河向いから池までの熊笹を切開いた路はぐしょぐしょに水浸しになって歩きにくかった。学校の先生らしい一行があとから自分らを追越して行った。
明神池は自分には別に珍しい印象を与えなかった。何となく人工的な感じのする点がこの池を有名にしているかと思われた。しかし、紅葉の季節に見直すといいかもしれない。同じ道を引返して帝国ホテルで昼飯を食ってから、今度は田代池というのを見に行った。赤の浮いた水には妙に無気味な感覚があって、どこかの草むらから錦の色をした蛇でも這出しそうな気がした。こうしたじめじめした池沼のほとりの雰囲気はいつも自分の頭のどこかに幼い頃から巣くっている色々な御伽噺中の妖精を思い出すようである。
大正池の畔に出て草臥れを休めていると池の中から絶えずガラガラガラ何かの機械の歯車の轢音らしいものが聞こえて来る。見ると池の真中に土手のようなものが突出していて、その端の小屋のようなものの中で何かしら機械が運転しているらしい。