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ゆきとどろ

雪と泥

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页

青空文庫

「おあいにくさまね、量りの粉炭じゃあ山とくべたって暖かくはならないよ」げれ松はこう云って欠伸をした、「今夜もお茶ひきか、やれやれなっちゃないや」

「いまにひっかかるよ」おつねが云った、「きっといまにひっかかるから、いいかげんにしたほうがいいよおしのさん」

「心配しないでよ、あたし姐さんと違って薄情なんだから」おしのは立って着物を着ながら云った、「姐さんは情に脆いから、そうでもない男にこっちからはまってゆくんだもの、そうしてよせばいいのに子供なんか産んで、その子を育てるのに好んで苦労しているじゃないの、あたしにはそんな真似しろったってできやしないわ。姐さんこそちっとしっかりしてちょうだいって云いたいくらいよ」

おつねは横眼でおしのを見た。子供のことを云われたのが癇に障ったらしい、だがなにも云わずに化粧を続けた。

おしのは二十一になる。二十一という年が躯にも感情にも溢れているようにみえる。色が白くきめがこまやかで、肌はぜんたいに絖のような光沢をおびていた。その肌は斜めに見ると透きとおるように思える。顔はしもぶくれで、眉と眼のあいだが広く、そのために眼を伏せると、吃驚した童女のような表情になる。