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ゆきのひ

雪の日

近松 秋江

「趣味」1910(明治43)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,365 字 · 17 页

青空文庫

もうそんなおさらい話を廃しにしましょう」

「まあまあ。いいじゃないか。して聞かしてくれ。……たまには、それでも会ってみたいという好奇心は起らないものかねえ」

女は黙ってじっと考えていたが、少し感興を生じたような顔をして、

「ああ、そうそう、一度こういうことがありました。あれは何でもあなたが函根に行っていた時分か、それとも国に行ってらしった時分か、たしか去年の春だったろうと思う。私、買い物に×町の通りに行って、姉といっしょに歩いてたんです。

そうして呉服屋であったか、八百屋であったかの店前に、街の方を背にして立っていると、傍に立っていた姉が、『あれあれ』って不意に私の横腹の処を突くから私、何かと思って『えッ、何ッ』って背後を向くと、姉がそっちじゃない。あっちあっちってまだ一間か一間半ばかしも行っていない方を頤で指し『間抜けだねえ。お前、あれが分らないか』と言うんです、それが先の連合なの。――ですから姉が初め私の横腹を突いた時分に、ちょうど背後のところを通っていたくらいでしょう。それでもまだ先方の横顔だけは見えました。――それが自分の兄さんの嫁と二人連れなの。