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ゆきのたけしとうげ

雪の武石峠

別所 梅之助

「山岳 十の一」1915(大正4)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,818 字 · 12 页

青空文庫

木曾路に入ろうという計画をよして、きょうは西条へとむかう。

松本平から見あげられる連山に分れて、正午西条についた。停車場の出口に見張をしている巡査に、どこの宿がよかろうかときいて、古松屋というのに荷をおろす。山清路への案内を求むれば、「善さんとこ聞いて、来い、音さんどうだ」の末、ないという。さらばと二人は身支度して泥路をふむ。ゆく事しばし案内者を求めえて、雪斑なる聖山をのぞみつつ、県道を進む事二十町ほど、左、郡道、差切新道と、石のみちしるべあるところより折れて、すたすた仁熊、細田、赤松と、麻績川にそうて、やや降り道。

洗った足袋がつまるとて、M君は頻りに足をいたがる。草鞋も二度切った。一時五十分差切についた。岩は聳え、滝は氷っていた。進みゆけば小トンネルいくつか。岩は奇、されど惜しいかな、景が狭い。水の色もわるい。水上に炭山があると案内者がいう。私は来た路の田舎家に、「天下の絶勝、差切新道絵葉書」とあった看板をおもい出して、笑壺に入りながら、第三紀層の礫岩らしいのを叩いて通った。

またいくつか里をこえてゆくと、橋普請の材木のみ徒らに道を塞いで、橋桁すらない所がある。