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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

「でも、柚子に抱きつかれて、デレデレしていたじゃ、ありませんか。あなたって、あんなこともするひとなのね」

香世子の霊は下眼にうつむいて、なにか考えているふうだったが、伸びあがるように背筋を立てると、あらたまった口調になって、

「今日は折入ってお話したいことがあるの。そちらにいた十年の間、あたしはあなたから来る空気だけで生きていたようなものだったわ。潜水夫に空気を送るゴムの管があるでしょう。ああいった管で、しっかりとあなたに結びついていたの。あたしが潜水夫で、空気を送るポンプはあなたなの……なにもごぞんじなかったでしょうが、その長い間、あたしは、暗い、ひっそりとした、孤独な海の底で、あなたがくださる空気だけをたよりに、浮いたり沈んだりしながら、あわれな恰好で生きていたんです」

「いまのところは、ちょうど反対になってしまったようだね」

香世子の霊はうれしそうにうなずいて、

「そうなのよ。よくわかってくだすったわね……あたしは風の吹きとおる、広々としたところにいるのに、あなたは、暗い、じめじめしたところに、虫のようにうごめいていらっしゃる……お返しといっちゃ、悪いけど、あたしが修練をつんで、もっと自由に動けるようになったら、あなたの影身に添って、お助けをしようと思っていたんですけど、あなたのなさることを見ていると、