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くものこみち
雲の小径
久生 十蘭
「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页
という看板の出た浅間な二階建の家だった。
よく撓う大阪格子の戸をあけると、口髯ばかりいかめしい貧相な男が、袴のうしろをひきずりながら出てきた。
「当会の主事でございます。ご予約の方で」
「今朝ほど、電話でおねがいしておいた白川ですが」
「白川さま……お待ち申しておりました。どうか、お上り遊ばして」
安手な置床のある二階の八畳で待っていると、主事と名乗ったさっきの男が、蒼白い肌の艶をみせた、四十三四の肥りかげんの中年の女を連れて入ってきて、
「この方が霊媒さんで」
と白川に紹介した。
霊媒が床前の座蒲団に正坐すると、主事は白川を霊媒と向きあう位置に据えて、
「では、はじめますから」
と、立って行って電燈を消した。
床脇の長押に、一尺ほどの長さの薄赤いネオン燈がついているほか、灯影はなく、霊媒の顔がぼんやりと浮きあがっている闇の中で、トホカミエミタメ、トホカミエミタメとくりかえす祝詞調の主事の声が聞えていたが、そのうちに、白川のそばへすうっといざりよってきて、
「間もなく、お出になります」
と重々しい口調で挨拶した。
見ていると、寂然としずまりかえっていた霊媒の上体がゆらゆらと揺れだし、どこから出るのかと思われるような、人間の五音をはずした妙な声で、うむうむと唸りだした。