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かみなり

雷

海野 十三

「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,706 字 · 40 页

青空文庫

「これはサンエスの油ですネ。そして笹川扱いだ」

「ほう、よく御存知ですナ。……博士になる人は豪いものだ、何でも知ってなさる」

北鳴は、また気味のわるい笑みをニッと浮べて、稲田夫婦をふりかえった。

「こういう油類を扱っているのなら、屋根に避雷針をつけないじゃ危険ですよ。もし落雷すれば階下から猛烈な火事が起って、貴女がたは焼死しますぞ」

「ええ、そうだと申しますネ。娘夫婦も前からそれを云うのですが、そのうちに避雷針を建てることにしましょう」

「それがいいですよ。しかしこの松さんには頼まぬがいい。この人の避雷針は、肝心な避雷針と大地とを繋ぐ地線を忘れているから、さっきの火の見梯子の落雷事件のように、避雷針があっても落雷して、何にもならぬのです。私は、こんど建てたあの櫓の上に、理想的に立派な避雷針をたてるつもりですから、是非見にいらっしゃい」

稲田夫婦は、それをしきりに感謝していた。

「いいですネ。早く避雷針をお建てなさい」

と、北鳴は重ねて云った。

「北鳴の旦那の櫓の上に避雷針が建てば、この近所の家は、一緒に雷除けの恩を蒙るわけでしょうかネ」

北鳴には、松吉の質問が聞えたのか聞えなかったのか分らないがそれに応えないで、すっかり雨のあがった往来に出ていった。