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でんきかんばんのしんけい
電気看板の神経
海野 十三
「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,480 字 · 29 页
吉公というのは祖父江春吉が本名で、本来なら春公とか何とか言うのがあたりまえなんだが、彼がこのカフェに来る前に既に春ちゃんと呼ばれる女給が居た関係上、春吉の方は春公とは言わないで、吉公とよばれていた。圭さんと吉公とはまあ仲のいい方で、そして二人はカフェ・ネオンに於ける正しく男子現業員の全部で、そして気の毒にも一階受持ちの女給八人、二階受持ちの女給七人、合計十五人の娘子軍に対し、名実共に頭が上らなかったのである。
こうした風景が、カフェ・ネオンにおいて表面は案外平凡にくりかえされているうちに、突如として大惨劇の黒雲が、この家の上に舞い下った。それは月も氷るという大寒が、ミシミシと音をたてて廂の上を渡ってゆく二月のはじめの夜中の出来ごとだった。カフェ・ネオンの三階の寝室で、春ちゃんが惨殺されてしまったのである。その寝室には春ちゃんの外に四人の女給が、思い思いの方向に枕を置いて寝ていたのであるが、不思議なことに、彼女達は、春ちゃんの殺されたことを朝の十一時まで全く知らなかったのである。丁度その時刻のすこし前に給仕長の圭さんが出勤して来て、階下のコック室に独寝をしていた吉公を叩き起すと、その勢いで三階の娘子軍の寝室までかけ上ったところ、蒲団をまくられても寝ている方がましだという頑強な反抗に遭い、温和しく階下へおり