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でんしゃていりゅうじょう

電車停留場

豊島 与志雄

「女性」1923(大正12)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,082 字 · 31 页

青空文庫

パナマの帽子越しに頭ががーんとして、眼の前が暗くなった。もう何もかも嫌になってしまった。何ということもなく方向を変えて、真直に家の方へ帰りかけた。

所が電車の中で、こんなに早く細君の前へのこのこ帰ってゆく自分自身が、馬鹿げて気の利かない者のように思われ出した。気が利かないと云えば、紙入の中をごまかした細君も、アメリカへ自分をやらない社長も、今日のつまらない送別会も、二次会をしない同僚等も、一杯込んでる電車も、何もかも気が利かなかった。そしてまたそれらのものが、彼自身を猶更気の利かないものに思わせるのだった。彼は忌々しい気持を眼付に籠めて、街路の有様を見送っていった。そこへ、車掌から言葉をかけられ、小僧が背負ってる行李の角で背中を突つかれ、車掌から肩を押され、ぐっと癪に障って、持ち前の酒癖も手伝って、腹立ちまぎれの気分がねっとりと車掌の方へ絡んでゆき、更に乗客等の視線から煽られて、引くに引かれぬ破目に陥いっていった。それを自らごまかす気もあって、かさに掛って怒鳴り立ててるうちに、監督という一寸面倒くさい言葉から、度を失いかけたのを取返すために、煙草の失態を仕出来してしまった。