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れいかん
霊感
豊島 与志雄
「中央公論」1952(昭和27)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,268 字 · 31 页
を誦し終ると、他の経文はぬきにして、いきなり御題目にはいりました。
繰り返し繰り返し、御題目を唱えていますうちに、やがて、A女は声がつまってくるのを感じました。肱を張って合掌してる両手に、痺れるほど力をこめ、なお御題目を唱え続けましたが、その声は次第に低く細くなり、瞑目してる瞼のうちに顕現したものがあります。
音なき声が聞えます。
――ミロクだぞ。
間を置いて、また聞えます。
――近々に火が出るから、気をつけたがよかろう。
間を置いて、また聞えます。
――火伏せの神ゆえ、出来るだけは守護してやる。
それから、問答とも知れず会得とも知れない、微妙な境地にはいります。
御題目の声が、次第に安らかに出てきました。気が晴れ、A女は眼を開き、なお暫し御題目を唱え、それからぴたりと切って、最後に、「宝塔偈」と「発願」とを誦し終りました。
A女は江口さんの方へ向き直り、見据えるようにしていました。
「ミロクというかた、御存じですか。」
江口さんはふしぎそうにA女の顔を見上げました。
「身禄さんなら、知っています。」
「どういうかたですか。」
そこで江口さんは、身禄さんのことを話し、通りがかりにただなんとなくお時儀をしていることを打ち明けました。