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しもばしら
霜柱
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,328 字 · 29 页
「向うにそんな気持があればこっちに通じない筈はない、おれにだって人の気持を感じとるくらいの能力はあるんだ」
「もう一つの理由は」と石沢は構わずに続けた、「これはおれの想像だけれども、繁野さんがおまえを好いてるということだ」
「なんだって」
「あの温厚な人がそれほどきびしくするというのは、おまえを好いているからではないか、そうだ」と石沢は大きく頷いた、「単に家老と郡代支配という関係なら、そんなにきびしく当るわけがない、おまえはいま子供でも叱るようにと云ったが、繁野さんはおまえを好いているため、親が子供にきびしくするようにきびしくするのではないか、それならおれにはよくわかるが、おまえにはそうは思えないか」
「そうだ」と喜兵衛は顔をあげた。
「そう思えるか」
「いや違う、ようやく思いだしたんだ」と喜兵衛は首を振って云った、「熊平のことを持ちだしたのはそのことが云いたかったからだ」
おかやは酒を取りに立っていった。
「あのとしよりはなんにも信じなかった」と喜兵衛は続けた、「おれもいまはなにも信じられない、たとえ繁野老職の口から、おまえを子供のように思っているとは云われても、おれは断じて信じないぞ」