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きりのなか

霧の中

豊島 与志雄

――「正夫の世界」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,920 字 · 40 页

青空文庫

大きな蛇がいるという話だった。米倉の主で、鼠をとって食べてるそうだった。

或る時、夏蜜柑の木の根本に、大きな蛇がとぐろを巻いていた。正夫の手首ほどの大きさの青大将で、それがきれいに輪をまいて、真中から鎌首をもたげ、細長い鋭い舌をちろちろさしている。そっと寄っていくと、のろのろはい出して、びっくりするほど長くなり、見返りもせず、でも急ぎもせず、逃げていく。先廻りして前に出ると、するりと横にそれて、やはり見返りもせずに、のろのろはってゆく……。ひとをばかにしてるんだ。正夫は腹をたてて、いきなり走りよって、その首のあたりを掴んだ。ひやりとした。次に、肩と腰のあたりがひやりとした。蛇がのたくったのだろう。正夫はもう夢中で、手に力をこめて、家の方にやっていった。蛇は頭で正夫の手にからみつき、胴から下はだらりと、尾の方は地面にひきずっている。正夫はいつしか大きい声でわあわあ泣いていた。泣きながら、蛇をひきずって、家の中にはいっていった。怖ろしいのか、嬉しいのか、一生懸命なのか、とにかく無我夢中で、わあわあ泣いてるのだった……。

「ほんとに泣いちゃったよ。」

「そんな泣き方ってあるかい。