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きりのなか
霧の中
豊島 与志雄
――「正夫の世界」――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,920 字 · 40 页
初めは小さく、兜虫のようにのろのろと、やがて大きくなり、早くなって、風のようにさっと通りすぎ、同時にごーっと音がし、白い埃をまきあげた。その時、麦か米か粉かの大きな袋が堆くつんである、その上から、人間が一つ、軽くふわりところがり落ち、それがこんどは重々しく地面にはねあがり、そしてぐったりとなった。トラックは走り去り、落ちた人間だけがそこに長くのびている。
あたりには誰もいなかった。何の声もなかった。やがてどこからか、子供が二三人出て来た。大人も出てきた。地面からわき出たようだ。地面からわきだして、そこに集ってきた。そしてまるく立並んだ。正夫もその中にはいった。そこに落し忘れられてるのは、襯衣の上に腹掛をし、地下足袋をはいた男で、仰向けに、手足を伸し、眼をとじ、口をあけて、眠ってるようだった。埃にまみれてるだけで、血も見えないし、怪我してるらしくもなかった。まわりにはもう、十人あまりの人が集っていた。
「それがみんな、どこからか、地面からわき出してきたんだ。」
「君もそうか。」
「僕はちがうさ。初めから見ていたんだから。」
「ほう……。まあなんだね、虫が死んだのが落ちてると、どこからか蟻が集ってくるようなもんだね。