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きりのなか
霧の中
豊島 与志雄
――「正夫の世界」――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,920 字 · 40 页
」
「…………」
「君が行ったって、猿は逃げやしないさ。だからそんなことを云うんだ。けれど、僕は君とは違うんだ。」
「そりゃあ違うさ。」
「いやそうじゃないよ。まるで違った別なものだよ。」
「それでどうなんだい。」
「それでいて、君はいつも、ひとも自分と同じものだと思ってるんだろう。」
「思ってやしないよ。」
「でもそういう考え方をしているよ。だからお父さんのことだって、君には分ってやしないんだ。僕のことだって分ってやしないよ。」
「そりゃあ、すっかりは分らないよ。」
「だから、あんまりへんなことを云うなよ。」
チビは耳をかいて、口を噤んだ。それから媚びるように云った。
「こんど、東京に帰ったら、霧の晩に歩いてみないかい。僕と一緒にだよ。木の葉に露の雫がたまってる時がいいね。そしたら、僕はどんな高いところにでも飛びあがって、みんなはらい落して、いくらでも浴せてやるよ。」
「うん、歩こう。」
正夫はただそう答えて、ぼんやり大空の雲を眺めた。
チビも黙りこんで、雲を眺めた。雲は空高く速く流れていた。正夫はふいに立上っていった。
「少し寒くなった。馳けてみようよ。」
二人は草原の中を走りだした。