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つゆのこたえ

露の答

坂口 安吾

ぬばたまのなにかと人の問ひしとき露とこたへて消なましものを

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,237 字 · 14 页

青空文庫

内閣の方では全然こだわらぬにも拘らず、之が世間へもれてくると、大問題になった。

この次官は後に官僚をやめて反対党に走り大臣になって辣腕をふるった人物ですから、五郎兵衛の折衝は重且大です。ところが五郎兵衛はそのとき私事に悩んでおって、居所さえ定かならず、一世一代の腕の見せ場所で、時を失し、機を失した。五郎兵衛の居所を探すために院外団が東西又南北の待合を走り廻ったという有様で、要するに彼も亦一方の大人物であったかも知れません。

当時加茂五郎兵衛の悩める私事は恋愛であった。恋に痩せ千々に乱れるというのは奈良平安の昔から我が政治家の美徳です。ところが五郎兵衛は恋そのものにはさして乱れていませんでしたが、執念の女に追われて、大いに悩んでおりました。

この女はお玉と言って、元は加茂家の女中です。先夫人の死去と共に、いつとなく後妻のような位置に坐り、美人でもなければ才女でもないのですが、加茂家を切廻す権勢は大したものです。意地ッ張りで右と言ったら以後の人世は左に目をやらぬタチで、内助の功などは全くなく、先夫人の子供達は去勢された有様でありました。不思議なくらい五郎兵衛の頭が上らなかった理由は奈辺にありますか、それでも彼は常住女色に踏み迷い絶えざる波瀾を捲き起してはおりました。