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ろはんせんせいのおもいで

露伴先生の思い出

和辻 哲郎

「文学」1947(昭和22)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,158 字 · 9 页

青空文庫

人生の奥底にある厳粛なものについての感覚が、太い根のようにすべての味解をささえていた。従って味の高下や品格などについては決して妥協を許さない明確な標準があったように思われる。外見の柔らかさにかかわらず首っ骨の硬い人であったのはそのゆえであろう。

何かのおりに、どうして京都大学を早くやめられたか、と先生に質問したことがある。その時先生は次のようなことを答えられた。自分は江戸時代の文芸史の講義をやるはずになっていたが、いよいよ腰を据えてやるとなると、自分の好きな作品や作家だけを取り上げて問題にしているわけには行かない。御承知の通り江戸時代の戯作者の作品には実にくだらないものが多いが、ああいうものを一々まじめに読んで、学問的にちゃんと整理しなくてはならないとなると、どうにもやりきれないという気がする。それよりも自分の好きなものを、時代のいかんを問わず、また日本と外国とを問わず、自由に読んでいたい。そういうわけでまあ一年きりで御免をこうむったわけです。

先生のあげられたこの理由が、先生の大学に留まらなかった理由の全部であるかどうかは、わたくしは知らない。