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あおべかにっき

青べか日記

山本 周五郎

――吾が生活 し・さ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,334 字 · 76 页

青空文庫

あの男が恋しい。嗽は矢張り良くない。今日は澄んだ秋日和で終日南風が吹き通した。為事がしたい。為事がし度い、ド・キュレルの「獅子の餌食」読んでいる、個人主義と資本力の弁護に就いて見るべきものがあるようだ。併し余の解釈は違う(今は云うまい)。帰船の中で、秋の落日後の、佗しい葦と洲と旧い街並みと川の堤を見た。遠く海の方に赤い一団の雲がいつまでも光っていた。淡い夕星が一つ、かすかに光り出していた。「かわほり」が蚊を喰べて飛び廻っていた。荒川も中川も出水で土色に濁り、かなり流れも速く、然も波が立っていた。夕景に先の家の老婆を訪ねた、老婆は寂しく独りで夕食を採っていた。淋しい秋の一日であった。(一〇、九)

一昨日代々木の「ヒ」の家に泊った、夜半近くに火事があった。それを見る為に冷たい夜気に当って感冒をひき、昨日はひどい熱で悩んだ。正午頃浦安に帰り床に就いたが三十八度を越す高熱で氷枕もなく大変に不自由な苦しさを味わった。幸いに家婦の好意で砂糖湯を飲み、その後でひどい発汗があって熱は下った。家婦はなんでもすぐサトウ湯を呉れる。今日は熱は少しもない。バタ・ブレッドと果物の罐詰と砂糖湯とで一日を暮した。