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せいしゅん

青春

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,799 字 · 16 页

青空文庫

それをうたう人は東京から来た人しかなく、男の声でそのうたをうたう東京から来た人といえば、その村では誰それとすぐわかる人であった。私はそれにじっと耳を傾けている。雪がつもって凍った外の夜はいかにもひろく、むこうの山並までもつらなっているなかを、マント姿で行く人の姿を浮かべているのであった。

十九のとき、十五であった弟が亡くなった。それより前に十六のとき、五つであった妹がなくなっている。そればかりでなく、その間にはもう一人、人形のような顔をした赤ん坊が一人、母が髪を結っていたついそのうしろで、いつの間にやら息をしなくなっていたこともあった。

十五で死んだ弟は、私の恐怖であった。彼は何という敵意を私に対して抱いていたことだろう。この弟は、すぐ怒って、私の髪をつかんで畳の上へひき倒した。そして殴ったりし、蹴りもした。私にだけそんなことをした。私の困るようなことを見つけるのがうまくて、ああ困ったと思うと私はすぐ、その弟の大の男並に脊丈と力のある体と、肉の厚い怒った顔つきを思い合わせ、告げ口されることを思って閉口するのであった。この弟の何か不調和であった不幸な肉体のなかでは、早すぎる小悪魔が目を覚して、荒れたのだったろう。