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ひじょうのあい
非情の愛
豊島 与志雄
「中央公論」1947(昭和22)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页
その頃から、異変が起りかけた。美春がややもすれば腹匐いになりそうだった。合掌した手先を高く挙げると共に、上体を前に屈めて畳とすれすれになり、手先から腰へかけて、ゆるい蠕動をはじめた。神子はただ合掌して読経していたが、ちらと、美春の方を振り向いた。即時に、美春は普通の姿勢に返った。がやがて、美春はまた上体を屈めて、蠕動しはじめた。神子はちらと振り向いた。美春は元の姿勢に返った。それからまた、蠕動をはじめた。――それが幾度か繰り返された。恰も、神子は背後のことをも見通しで、美春の姿態を戒めてるかのようであり、美春は神子の視線を恐れながらも、蠕動に引き入れられるかのようであった。
遂に、美春は合掌を解いて畳に伏し、両手から両膝へかけて蠕動した。その状がまさしく蛭のようであった。その瞬間、神子は卓上の如意を取って振り向きざま、美春にさしつけた。その威にぴたりと押えられて、美春はもう身動きもならなかった。
神子はやはり細目ながら、眼尻をつりあげ、血の気の引いた蒼白な顔になっていた。立膝で少しくにじり寄って、更にぴたりと美春を押えた。そして威圧的な低声で言った。