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ひじょうのあい

非情の愛

豊島 与志雄

「中央公論」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页

青空文庫

その話を、秦啓源に伝えると、彼に真面目に言った。

「その蟹は如何にも日本的だ。全く日本的だ。」

その説に、吾々は率直に同感したのだった。

ところで、私の注意を惹いたことが一つある。

私は秦啓源と波多野洋介とを交際させたかった。それで、秦に向っては、波多野のことをいろいろ話し、波多野に向っては、秦のことをいろいろ話しておいた。勿論さしさわりのない事柄だけではあったが、それを、秦は黙って聞いたし、波多野も黙って聞いた。それから「五郎」で、私は二人を紹介した。

土間の棕櫚竹の鉢植えのそばで、つっ立ったまま、彼等は、互いにじっと見合った。時間にして僅か数秒だったろうが、それが何としても不自然だと思えるほどの長い間、じっと見合った。それも、顔立を眺めるとか顔色を読むとかいうのではなく、眼の中をじっと見入って、眼の孔から心中を覗きこむという工合だった。とっさに、私は感じた。この二人は前から知り合いだったのだ。然しそれならばなぜ、相手方に関する私の話を、二人とも黙って聞き捨てたのであろうか、他人に知られたくない秘密が二人の間にあったのであろうか。疑惑が私の胸に萠した。