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おんぱのさつじん

音波の殺人

野村 胡堂

「新青年」1936(昭和11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,399 字 · 30 页

青空文庫

だ、その上金の無いパトロンだ」

「シッ、本人が来る」

「桑原桑原」

二人は警戒の警官に挨拶して、犯行のあった部屋へ入れて貰いました。何んにも手を触れさえしなければ、という、厳重な条件付で許されたことは言う迄もありません。

「俺は矢張り此処が臭いと思う。この窓へ踏台でもして――いや縄梯子の方が便利だ、兎に角、そんなものを掛けて上半身を出せば、三角戸棚から拳銃も取れるし、狙い撃つことも簡単だ。その梯子を外して咄嗟の間に廊下へ飛込めば、鳥子の後ろからこの部屋へ入ることも不可能ではない、拳銃が鳴ってからピアノは三四小節弾かれたというし、藤井が若菜を抱き起す隙も計算される」

「すると」

千種十次郎の疑は真っ直ぐに岡崎敬之助へ向うのを、早坂勇も呑込みました。

「ね、千種さん」

後ろから覗いたのは鳥子でした。夫の藤井薫が先刻引かれて行ったのを見ると、矢も楯もたまらなかったでしょう。

「鳥子さん、うまく行けば藤井さんを救えるかも知れない、――オペラ・グラスがあったら見付けて来て下さい」

「え」

鳥子は出て行きましたが、やがて、若菜の愛用だったらしい、象牙に金の柄の付いた、豪勢なオペラグラスを持って来ました。