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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
けれども清三は康子の白い指を見ながら、もう一度、帰りますと繰返した。
「怒ったの?」
康子が清三の顔を窃むようにして云った、清三は黙って座を立った、清三が外套を着て食堂を出ると、康子も一緒に従いて来た。
「怒ってるの?」
出口のほうへ近づいたときまた康子が云った。清三は静かな廊下の曲角の蔭で不意に立止まると、手を伸ばして女の指を握った、康子の瞳が驚いて男を見た、清三は遁げるように女の前から去った。
家では青木が炬燵に寝そべっていた、青木は、嫂が今日兄貴の上役と交際で芝居を観に行ったと話した。清三は冷えた躯を派手な炬燵蒲団の中に埋めて、やけにがんがんする頭をぐったり垂れた。
そうしているうちに、だんだん落着いてきた清三は、康子の気持が分かるような気がしてきた。とくに二人の食事を、そうした場所へもっていったことも首肯かれた。そして何かもっと大きな事件を期待して行った自分の、軽々しい恋情を見返って苦笑した。
康子の帰りを待たずに清三は二階へ上って寝た、夜中躯が悩ましかった。
四五日後の夕刻二人きりで夕食の膳についたとき、康子がやや強い表情で清三を見ながら、