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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

05 ねずみ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,527 字 · 23 页

青空文庫

……思うに、堺屋では、石見銀山を買った。ご承知の通り、この鼠とりは蛤っ貝の中に入っている。それを飯たきがへっついの近くの棚にのせておいたに違いない。そして、その棚の近くには鼠の通う穴があるはずだ。嘘だと思うなら行って調べてごらんなさい。かならずある。……ここまで陳ずれば、あとはくどくど説くがものもねえのだが、どうして、こんな間違いが起きたかと言えば、ねずみが棚を走りまわって、殺鼠剤の入った蛤っ貝を下に蹴り落した。運悪くへっついの近所に、晩飯の蛤汁にする蛤が水盥にでも入れておいてあった。……飯たきが夕飯の仕度にかかって、ふと見ると蛤がひとつ水盥からはね出している。……おや、ここにもひとつ、というわけで、手ッ暗がりの台所で、そいつを何気なく鍋の中に拾いこんだというわけ。……さア、早く堺屋へ行って、チュウ助を召し捕ってしまいなせえ。まごまごしていると、ズラかるかも知れねえからの」

顎十郎の聴き役、庄兵衛のひとり娘の花世の部屋へ入ってゆくと、花世は今度の成行を心配して顎十郎を待っていたところだった。堺屋の末娘のおさよから花世に宛てて長い手紙が来ていた。

紅梅入りの薄葉に美しい手蹟で、忠助にかぎってそんな大それたことをするはずがないと、そのひとつことばかり、くりかえしくりかえし書いてあった。