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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

03 都鳥

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,604 字 · 28 页

青空文庫

あの草履の裏には泥こそついていないが、そのかわり、魚の鱗がついていましたぜ。釣舟へのせて大川からここまで上って来たにちがいありません、そこにお気がつかれぬとは、吟味方筆頭もおかげがねえ」

「なに! 吟味方筆頭がどうしたと。……なにかゴヤゴヤもうしたな。もう一度はっきり言って見ろ。そのままに捨ておかんぞ」

「まあまあ」

「うるさい!」

「まあ、そう、ご立腹なさらずに、薬罐が煮こぼれます」

「放っとけ、俺の薬罐だ。……貴様のようなやつと一緒には歩かん。おれは、ひとりで帰る」

真赤にいきり立って、ドンドンと神保町の方へ歩いて行ってしまった。

千鳥ガ淵

顎十郎は、駈け戻って来たひょろ松の顔を見て、

「おい、叔父はとうとう怒って行ってしまった。……じつは、ここにいられては都合が悪いでな、わざと怒らせて追ッ払った」

「でも、あまり怒らせてしまうと、せっかくの小遣の口がフイになりますぜ」

「それもあるが、どうせ、また叔父の手柄にするのだから、あまり俺が、見透したようじゃ工合が悪い」

「まったく、あなたのような方はめずらしい。……じゃ、なんですか、いまの比丘尼の件は、もう、見込みがついたんで……」