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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

10 野伏大名

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,028 字 · 30 页

青空文庫

「ザックバランにいうと、この事件から手をひいていただきたいんです」

藤波は千太のほうへ振りかえって、

「千太、聞いたか。先生が奇抜なことをおっしゃっていられる。……お前らのでる幕じゃないから、引っこみをつけろというんだが、いったいどうしたもんだろうな」

千太はせせら笑って、

「えへへ、ご冗談、箱根山からこっちにア化物あ出ないという。引っこみをつけるなア、こっちのこっちゃあねえ、そこに突っ立ってる顎化けのほう……」

顎化け……と、しまいまでは言いおわらなかった。咄嗟に、顎十郎の右手が動いて、チャリンと鍔鳴りがしたと思うと、

「エイッ」

鞭をふるほどに、空気が動いて、また鍔鳴りの音。それでおしまい。ふたりの眼には、顎十郎の右手が、チラと動いたのが見えたばかり。そのほかには、いっこう、なんの変てつもない。

藤波も千太も、顎十郎の凄い手練は、じゅうぶん知っている。

いつか氷川さまの境内で、ドキッとするような目にあっている。が、いっぽう、大した落着きかたで、めったにひとを斬るほど血気にはやらないことも知っている。また例のおどしだと思ったものだから、負けん気の千太、ふふんと鼻で笑って、なにをしゃらくせえ、と言うつもりなのが、ただ、