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かお

顔

宮本 百合子

「中央公論」1924(大正13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,099 字 · 23 页

青空文庫

ルイザは、震えながら、幾度も幾度も十字を切った。

「ああお恵み深い聖母、こんなことがあってよろしいものでしょうか。私の眼は今まで何を見ておりましたのでしょう」

彼女は、始めてフランツが人目を牽いた訳を知った。誰が、お前の子はイエス様にそっくりだなどと、造作なく云えたものか。彌撒が終ると、フランツは、合唱仲間と村長の家へ廻ることになっていた。

ルイザは、ハンスの腕をかたく握って会堂を出た。空は寒く深く晴れ上って、星が大きく燦いていた。往来の左右にははきよせた四五日前の雪があった。家々の窓から洩れる灯かげを横切って、時々黒く人通りがある。

暫く歩くと、路は広い空地にかかった。ルイザは、ぐっとハンスの腕を引いて、彼の耳を自分の口に近く下げさせた。そして、なおよく前後を見廻した後、始めてわかった驚くべき事実を彼に囁き聞かせたのであった。

ハンスの、重い口は、思いがけないことでまるで働きを失ったように見えた。彼は、

「ふうむ」と牡牛のように唸った。

黙って考に沈み、凍った夜道で一度二度足を辷らせながら、夫婦は家に着いた。ルイザは、鍵を廻して入口の扉をあけた。